藝術家簡介
1980年日本熊本市生まれ。日常用品と廃棄素材を組み合わせるのを得意とする。作品は主に環境多様性の応用、環境を捕捉、空間構造の光、声と人類の行為などを作品の中に取り入れている。彼の好みの創作スペースは芸術展覧のために作られた空間ではなく、例えば廃校の中、工場、森などといった場所だ。2017年札幌国際芸術祭にも参加したことがある。2005年より国際的に作品を披露しており、現代の日本で活躍する芸術家である。
作品簡介
The sound of A’tol / Atoll / Atall
「A’tol / Atoll / Atall」
材料:石、陶の釜、鉄の皿、セメント、土、水
大きな穴を掘って、石を積みます。平たくて硬い卵石(ランスー)は、もともとは台東の海辺にあったものです。ひとつずつ円形に積み上げた卵石の群れはやがて地中に埋まって見えなくなってしまいましたが、地上に漏れきこえる水の音は、この卵石が共鳴しあった結果です。円の表面には、近くの海から少しずつ石を運びました。周辺には、川から砂利を運びました。川の砂利がなく土が露出しているところは、今後幾度かの雨期を経て、やがて雑草で埋め尽くされてしまうでしょう。地表にみえている5つの巨大な石はすべて、穴を掘る過程で発見したものです。どれほどの期間埋もれていたものかわかりませんが、大雨や台風に運ばれてきた土砂がこの地に留まったのは、これらの大きな石が流れを止めていたからだとおもいます。この先、土の中で円形に積まれた卵石の群れが、役割を継いでつとめていくことでしょう。周囲にはいくつかの小さな木を植えました。やがてここの環境の音を、光を、ときに遮って、ときに反響(反射)して、環境を大きく変化させてくれるであろう期待をこめて。水の音のしくみは、水琴窟の原理に基づいています。常に変化する音色は、自然のテクノロジーです。自身の位置を変えてみると、また違った表情をみせてくれるでしょう。卵石の硬さが、水琴の反響と相性がよかったようにおもいます。
石積みを手伝ってくれた冠中から、都蘭の語源は「A’tolan(あとらん)」アミ語で「石を積み重ねた場所」という意味があると教えてもらいました。山で会ったおじいさんは、日本統治下に育った幼少期以来、日本語を長いこと喋ってないといいながら、石を積み重ねる、そのことを「A’tol(あとる)」と言いました。英語のAtollには、円形にできた珊瑚礁の島の意味があります。また、Atallには、At/all、ちっとも/全く(無い)という意味があります。下向きに石を積むことは物理的に不可能ですが、英訳は「Pile The Rocks Downwards」としました。下方へ石を積みすすめる、そのこと。
台湾に古くからある木を一緒に探してくれたおじさんは「植えた木が寂しがるから、君はまた帰って来ないといけないね」と僕に言いました。この木のいずれかがやがて大きくなって、いつの日か根っこが地中で作品を突き破り破壊する姿を想像しながら。
2018年6月27日 梅田哲也